NIPTについて

NIPT(新型出生前診断)の指針が改定される 今後、認可施設増加に期待

日本産科婦人科学会は、2020年6月20日に大学病院や総合病院などではない小規模な医療機関(クリニックや診療所)でもNIPT(新型出生前診断)を受けられるように、今までの指針を改定することを発表しました。

改定における新たな条件は以下の5つで、妊婦の支援体制を十分に整えられるかどうかを基準としています。

  1. 日本産科婦人科遺伝診療学会が定めた認定制度に合格した医師が在籍していること
  2. 検査時には、関連学会が作成した説明文書を使用すること
  3. 日本小児科学会が認めた小児科医に相談できる環境があること
  4. 検査前後に自由に小児科医に相談できる窓口を設置すること
  5. 検査結果が陽性の場合、遺伝専門医が出張するなどして、妊婦とその家族にカウンセリングを行える体制があること

これら5つの条件は、NIPTに関する正確な情報を示し妊婦自身の判断の助けとなること、妊婦と真摯に向き合い、寄り添うことを目的として定められました。

指針が改定されることにより、現時点で全国109か所ある認可施設に新たに70か所ほど加わると予想されており、今まで検査を希望していたにもかかわらず受けられなかった方も、今後は受けられる可能性が広がったといえるでしょう。

今回指針が改定された背景には、無認可施設の増加の阻止や、認可施設で検査を受けられなかった妊婦が無認可施設に流れるのを防ぎたい、という日本産科婦人科学会の想いがあります。

無認可施設とは、日本医学会が定めた規定ではなく、独自のシステムで検査を行っている医療機関のこと。

従来の出生前診断は羊水検査や絨毛検査が主流で、それを行うためにはかなり高度な技術が必要であり、流産する可能性も少なからずあったので、産婦人科以外の医師が行うことはありえませんでした。

しかし、NIPTの場合は妊婦から血液を採取して検査会社に送るだけで判定することができるため、妊婦の負担は大きく減ったのと同時に、専門外の医師でも実施できるようになりました。そのような病院側の事情に加えて、認可施設とくらべて、検査料金が安く予約が取りやすくなっていたり、妊婦に求められる条件が少なくなっていたりと妊婦側にもメリットがあることから、近年利用者が増加傾向にあるといわれています。

なかには産婦人科医や遺伝専門医が在籍していないような美容クリニックや皮膚科などで、NIPTが簡単に受けられるといった宣伝文句で検査を実施しているところもあり、最近は検査後のフォローの低さなどのトラブルが多く報告されていたそう。

晩婚化や不妊治療の発達で高齢妊娠が増加していることに比例して、NIPT希望者も増えていますが、いまのところ認可施設では検査を希望するすべての妊婦に対応できていません

その理由のひとつとして、検査対象となる妊婦の条件が厳しいということが挙げられます。

認可施設では、NIPTを受けたいと希望する妊婦に対する条件のほかにも、その医療機関が独自の条件を掲げているところが少なくありません。

その病院での分娩予約や通院歴が求められる、もしくは他院に通院中という人でも受け入れてくれる場合もありますが、通院中の担当医からの予約しか受け付けてくれないなど、検査のハードルがかなり高くなっています。

さらにNIPTの検査や検査前後に行われる遺伝カウンセリングの予約枠が少ないうえに、平日しか実施されないことがほとんどで、働いている妊婦にとっては何度も仕事を休んで通院することが強いられます。

また遺伝カウンセリングは夫婦もしくはパートナー同伴での出席を必須としている医療機関がほとんどで、妊婦だけでなくその家族にとっても負担が大きく、ますます受けづらいものとなっています。

そのような状況の中、休日でも検査やカウンセリングを実施している無認可施設などに、多くの妊婦が集まってしまうのも想像に難くありませんし、実際NIPTコンソーシアムが調査した結果、無認可施設では3か月間で3500件程度の診断実績があったそうです。

この数は、認可施設が行う診断よりも倍以上に多いと日本産科婦人科学会は推測しています。

NIPTコンソーシアムが認可施設で行われた検査結果によると、NIPTを受けた方のうち97.83%が陰性で、1.77%が陽性と出たとのデータがあります。(2013/4~2019/3)

NIPTが陽性だった場合、妊婦やその家族に対する心理的負担はかなり大きく、適切なフォロー体制が整っていないと、安易に中絶という重大な決断をしてしまうかもしれません。

中絶は、精神的なダメージはもちろん、身体的にも大きな負担があり、次の妊娠にも少なからず影響を及ぼす可能性もあるといわれています。

NIPTは陽性判定が出たとしても、確定診断ではないので先天性異常があるかどうかは判断できず、偽陽性といって異常がないのに陽性と反応が出る可能性もあります。

そのため、認可施設で陽性判定が出た場合は、必ず確定診断として羊水検査もしくは絨毛検査を受けることが義務付けられています。

サポートが不十分な無認可施設では、上記のようなNIPTに対する正しい情報が伝えられずに、ただ検査の結果を知らせ、その後どう判断するかは妊婦やその家族任せになっているのが現状です。

そのような状況を改善するべく、日本産科婦人科学会は、NIPTを希望する妊婦が増加しているなかで検査のクオリティを保ちつつ、希望されている方全てが検査を受けられるようにしたい、と考え今回の指針改定に踏み切りました。

ただ、NIPTについては検査が始まって以来、その存在に対する議論が絶えず、命の選別を助長することに繋がるという声や、女性の「産んで育てる」という権利のひとつであるから問題ないとする声など、現在も賛否両論さまざまな意見があります。

今回の指針改定を受けて、有志の医師や研究者などで結成されている「NIPTのよりよいあり方を考える有志」は、日本産科婦人科学会に対し「稚拙な結論が出されかねない状況を危惧する」などとした提言書を提出しました。

この有志の1人である研究者は「安易にNIPTができる医療施設を増やすのではなく、なぜ妊婦がNIPTを希望するのか、といった根本的な問題も解決していくべき。NIPTは産科だけの問題ではなく、教育や福祉の問題にもつながるのだから。」と、慎重な議論を求める意見を述べました。

今回の指針改定により、より多くの妊婦が正しいサポートのもと、検査を受けられるようになりますがそれと同時に、命や先天性障害に対する考え方もより深く突き詰めていくことが求められるようになるでしょう。

晩婚化、晩産化はますます進み、平成30年には女性の平均初婚年齢は29.4歳、平均初産年齢は30.7歳となっています。(厚生労働省 平成30年人口動態統計月報年計より)平成27年より平均初産年齢は変化しておらず、31歳ごろに第一子を出産するというのが定着しつつあるということがいえるでしょう。

出産時に35歳以上である場合は高齢出産に該当し、子どもに何らかの先天性異常が見つかる確率が格段に上がるといわれています。

第一子はあてはまらずとも第二子や第三子など、35歳を過ぎてからの出産となる可能性は大いにあり、どの女性であっても子どもを望む方にとっては、この問題は他人ごとではありません

認可施設が増えることで、出生前診断というものがより身近になりますが、軽い気持ちで受けるのではなく、なぜ検査を受けたいのか、もし陽性であった場合どうするのかなど、しっかりと考えてから臨むことが、検査を受けるうえで最も大切なことだといえるでしょう。

(朝日新聞「新型出生前診断、指針を改定 小規模医療機関でも可能に」