NIPT(母体血胎児染色体検査)の概要
NIPTとは無侵襲性出生前遺伝学的検査(Noninvasive prenatal genetic testing )の略称で、妊娠中に母体から採血しそれを用いて行う出生前遺伝学的検査のことを指します。
この検査の仕組みは、妊娠中の母体の血液が約10%ほど胎児のDNAを含んでいることを利用します。その胎児のDNAを集めて分析することによって、胎児の遺伝学的情報を得ることができ染色体異常を見つけ出します。
このNIPTは無侵襲性であることが、妊婦さんにとって大きなメリットといわれています。従来から行われていた出生前遺伝学的検査の羊水検査や絨毛検査は侵襲性(生体を傷つける割合)が高く流産の危険性があって安心して受けられなかったので、無侵襲的な胎児遺伝学的検査法の開発が長年期待されてきました。
1997年に香港の研究チームが母体の血液中に胎児のDNAが含まれていることを発見したのを皮切りに、検査方法の開発がどんどん進められていき2011年にはアメリカのシーケノム社がこのNIPTをスタートさせました。
その後2012年には約12,700件の検査が行われており、日本では2013年4月から臨床研究として開始されています。
日本のNIPTでは、3つの染色体異常(21トリソミー、18トリソミー、13トリソミー)を検出できます。トリソミーとは、それぞれの番号の染色体が通常2本であるところ3本になることによって起こる染色体異常のこと。それぞれ21トリソミーはダウン症候群、18トリソミーはエドワード症候群、13トリソミーはパトー症候群という疾患名で呼ばれています。
NIPTの検査精度は非常に高く、21トリソミーは99.1%、18トリソミーは100%、13トリソミーは91.7%と報告されています。また陰性的中率(検査結果が陰性と判断され、かつ実際に赤ちゃんが染色体異常ではなかった確率)がNIPTではほぼ100%となっていて、陰性と判断された場合は高い確率で3つの染色体異常はないと判断できます。
検査精度は高いと言われておりますが、NIPTはあくまで非確定検査に分類されています。そのためNIPTで陽性と出た場合は、確定検査として羊水検査や絨毛検査をする必要があります。
認可施設の1つである昭和大学病院の母体血を用いた出生前遺伝学的検査 (NIPT)の調査等に関するワーキンググループの発表によると、このNIPTは2013年の開始から2018年までに72,526件の検査が実施されています。
2018年は14,344人の方がNIPTを受けており、2018年に生まれた赤ちゃんの数918,400人から計算すると、NIPTを受けた方はその中の約1.56%となります。100人の妊婦さんがいれば、1人か2人はNIPTを受けたということになり、高齢出産の増加に伴って年々NIPTを受けられた妊婦さんの数は増加しています。
日本と海外でのNIPT認可施設の違い
日本の認可施設は、以下の6点をすべて満たすことが求められます。この条件はNIPTコンソーシアムという遺伝医療の専門家が、自主的にあつまって作った組織が定めた条件になります。
- 院内に専門外来を設置し、臨床遺伝専門医や認定遺伝カウンセラーが2名以上在籍し診療
- 設置した専門外来で1名30分以上の遺伝カウンセリングを行い、検査の詳しい説明をする
- 検査を終えた後も妊婦に対するフォローアップを行える体制がある
- 確定検査である絨毛検査や羊水検査に精通し、かつ安全に実施できる
- 産婦人科だけでなく小児科の臨床遺伝専門医に対しても、必要に応じて連携がとれる
- 臨床遺伝専門医や認定遺伝カウンセラーは、研修を受けるなどして検査に対する知識が高い状態を維持している。また院内で検査についての結果説明やカウンセリングにて妊婦の質問に十分に対応できる。
また妊婦さんに対しても条件が決められており、この全ての条件に当てはまる方のみが認可施設でのNIPTを実施できます。
- 妊娠10週以降の妊婦さん
- 以下のいずれかにあてはまる妊婦さん
- 染色体異常症(21トリソミー、18トリソミー、13トリソミーのどれか)がある子どもを妊娠または出産した経験がある場合
- 高齢出産になる場合
- その他胎児が染色体異常(21トリソミー、18トリソミー、13トリソミーのどれか)になる可能性がある場合
- 夫婦またはカップルからの検査を受けたい意思がはっきりとあり、遺伝カウンセリングを受けて検査について十分に理解し同意を得られた場合
このように認可施設ではNIPTを実施する側も受ける側も厳しい条件が設定されています。
海外では2020年時点でアメリカ、イギリス、フランス、ベルギー、ドイツ、オランダなどでNIPTが行われており、国によって規制の違いはありますが、アメリカは全ての妊婦さんが検査対象、検査料金も保険適応対象です。
また、検査でわかることも日本と比べて格段に多く、性別や性染色体異常、22q11.2欠失症候群などについても知ることができます。
ほとんどの国が妊婦さんの意思を尊重しており、NIPTを受けるか受けないかを妊婦さん自身が選択することができる制度が整っています。
NIPT実施施設ごとの違い
2018年時点でNIPT認可施設は92施設あり、各施設で検査体制にさまざまな違いがありますが大きく違うポイントは以下の3つです。
- 料金
- 検査を受けられる条件
- 予約枠
①料金
まず、①料金ですがNIPT自体の料金については大きな差はあまりありません。しかし認可施設では必ず検査前後に遺伝カウンセリングが行われ、そのカウンセリング料金が施設によって大きく違います。
具体的な金額でいうと、低いところでは1回5,000円から高いところでは10,000円以上かかるところもあり、最低でも2回のカウンセリングを受けることになるのでこの差は大きくなります。
②検査を受けられる条件
②検査を受けられる条件とは、前述したNIPTコンソーシアムが決めた条件以外にも施設が独自に決めた条件がある場合があります。たとえばその病院で妊婦検診を受けている人や分娩予約がある人、かかりつけ医からの紹介状がある人のみが検査を受けられるといった決まりがある施設も少なくありません。
③予約枠
③予約枠は施設によって千差万別で、平日午前午後ともに対応してくれるところもあれば、週1回午前中だけという施設もあります。都市部では認可施設が多いので自分に合ったところを選択できますが、それ以外の場所では数少ない認可施設に予約が集中しますので、予約枠が少ないと検査対象期間中に検査が受けられないといったことも起こりえます。
以上の3つのポイント以外にも遺伝カウンセリングにパートナーの出席が必須であるかどうか、通院回数の違いなども施設によって異なります。詳しい情報を知りたい場合は、各施設に関するページに記載しておりますのでご参考にしてください。
NIPTの検査結果と注意点
NIPTは陽性、陰性、判定保留の3つの結果が知らされます。
1つめに注意したい点はこの「判定保留」です。判定保留は、母体から採取した血液中に胎児の血液が少ないことが原因の1つであるといわれており、胎児の血液が少ないと遺伝情報がわからないため正確な判定が出ず再検査を勧められます。この判定保留は全体の1~2%の確率で起こるといわれており、高額な検査料がかかるNIPTを1回以上しなければいけない場合もあるという点に注意が必要です。
2つめに気を付けたいポイントは、偽陽性、偽陰性という結果です。妊婦さん自身にこの偽陽性、偽陰性という結果が知らされることはありませんが、結果として陽性ではなかったのに陽性と出た、陰性ではなかったのに陰性と出たということがあります。
偽陰性に関しては出産してみないと確かめることはできませんが、NIPTで陽性と出た場合は偽陽性でないことを確かめるために確定検査として羊水検査や絨毛検査を行います。そこで陽性と出た場合は、高い確率で染色体異常があると診断されます。
NIPTは胎児のDNAを直接検査しているわけではなく、あくまで母体の血液中のものを検査しています。また母体に含まれている胎児のDNA自体も胎盤由来であって胎児そのもののDNAではありませんので確定検査ではなく非確定検査として行われ、陽性と出た場合は必ず確定検査を受ける必要があります。
NIPTの費用の目安
実施施設ごとの違いでも述べましたが、NIPT自体の費用に関してはどの施設も大きく差はありません。認可施設の場合、大体20万前後の料金がかかる施設が多いです。
ただ認可施設の場合は、NIPT前後の遺伝カウンセリングが必須となっており、その費用が施設によって大きく違います。カウンセリング料金は5,000円~10,000円程度の幅がありますので、合計すると20万円以上はNIPT全体の費用として必要だといえるでしょう。